シコウの表現力(『三角の距離は限りないゼロ』感想)
青色姫草です
いとこが結婚するので家に旦那さんを連れて来ました。その応対をせずにリビングの隅で恋愛小説を読んでたのでその読書感想文です。
ニンゲン……キライ……ショウセツ……スキ……
『三角の距離は限りないゼロ』
先に言っておきます。どこを取っても百点満点です。
※ネタバレあります。未読勢に配慮していますが、多少のネタバレはご覚悟で。
~あらすじ~
人前では素を出せない。誰が相手でもキャラを作ってしまう僕。
二年生が始まる日の朝、擦り切れた愛読書を読んでいると、ひとりのはずの教室に知
らない女の子がいた。物静かな転校生は芯の通った子で、僕はそんな女の子に恋をした。
ただ、転校生――水瀬秋玻のなかにはもう一人の人格があった。彼女は物語のなかでしか知らなかった二重人格。記憶も性格も異なる一人の人間――水瀬春珂がそのなかにいた。。
あらすじ抜粋はよくないんじゃ?みたいな気持ちがあって最近は半分自作半分パクリみたいな感じで~あらすじ~を書いているのですが、どう読んでもどんな話かわかんないっすね。
あらすじの要点だけ抜きます。
・二重人格! クールな水瀬秋波のなかにはドジッ子春珂がいるよ!(「ドジッ子ハルカ」の音だと乃木坂さん家のハルカちゃんしか思い浮かばねえな)
・主人公は人前でキャラを作ってしまうことに悩んでいるよ!
・主人公は秋波に一目惚れ。秋波と同じ体に同居する春珂とは意気投合して友達に。
・二重人格だってバレたくない春珂だけれど、ドジッ子だからバレそうだよ! 助けてえーりん!
こんな感じ。
この記事の目次
- 思考のトレースが至高(タイトル)
- ちょっと個人的な感想(先に書いておくと拙作織り交ぜた感想なのでわたしの日記です)
ページ最後のおまけにグリッドマンのアカネチャンカワイイー諭が!(ないよ!)
1.思考のトレースが至高
『三角の距離は限りないゼロ』という作品を褒めるポイントはいくつもあって、たぶんどれも他の読者さんが褒めています。なので、わたしはわたしが特に感嘆した部分を紹介します。
・キャラクターの思考が正鵠な言葉になっている。
主人公の矢野が好きな人の部屋に入ったとき、部屋を見回して感想を胸中で語ります。その中身は、「うっわ、いい香りする」とか「人形とかあって女の子っぽいな」みたいな、現実の人が考えては一瞬で消えるような泡沫の思考を細部まですくいあげたものです。
後で思い返せば抽象的なイメージだけしか残らない考えを、少し奥手な矢野の言葉でしっかりと捉えています。ちなみに、思春期の男子高校生らしい妄想も逞しいです。「ああ、たしかにこんなシチュエーションの一瞬なら、こんなこと考える」。そんな風に思えるほどのリアルが言葉にこもっていました。
作品の中で、矢野は水瀬以外の友達ともたくさんの会話をします。心が温かくなるような言葉も、友達に投げかけられそうな言葉も、時にヒヤリとする言葉も。それら全てが誰かの口から発せられていると思い込めるほど、現実に近い空気が充満していました。それがたまらない!
友達の一人、須藤の台詞で印象深いのは「十六歳なんだよ」の人が多いと思いますが、個人的には最後のシーンの方が強かったです。何度も言うけれど作者の言葉選びが上手すぎる。
オススメだよ!(締めの句)
2.ちょっと個人的な感想(もうプラウザバックして他の人の感想を見にいっていいよ! ここまでお付き合いありがとうございました。今後の活躍にご期待ください)
※ガッツリネタバレあり※
というわけで個人的な感想コーナー。
キャラが定まってないの統一したい。というかそろそろ敬語かタメ口のどっちかに統一して欲しい。リアルでもごっちゃだから難しいっすけど。
ほんじゃまか!ちがった。そんじゃまあ!感想書きます。
Q.『三角の距離は限りないゼロ』のメインヒロインは誰?
問題という訳ではありませんが、既読者のかたはどう答えるでしょうか?
水瀬の二つの人格の内、矢野と触れ合う時間が多かったのは圧倒的に春珂でした。
もちろん、見えないところでは秋波と会話してたり行動を共にしているのかもしれませんが、小説の見せ場の問題上、二重人格というテーマ上、どうしてもドジッ子春珂の登場回数が多くなります。
この物語を途中まで読み進めたとき、ほとんどの人は「春珂」がメインヒロインだと答えると思います。
矢野と会話している回数が多いのは。話を進めているのは。デートを楽しんでいるのは。それら全てが生きていることを楽しんでいる春珂だから。
読み終えた時には「(どちらか一方を選ぶなら)秋波」と答えるとしても、途中までは春珂の登場、気持ちの斟酌の回数が多いせいで、メインヒロインが春珂だと感じられてしまいます。
……多くの読者はそう感じたのでは? という推測です。私自身はそうではなかったので。
わたしは高飛車なのかナンなのか、自分の作品でメインヒロインの登場数を少なくしたり、主要なキャラ見せをしたあとにメインヒロインをひとりだけ登場させる、みたいな構造の小説を書くことが多いです。そういうワケアリで秋波がメインヒロインを逆に疑わなかった部類です。
他の人の小説を読んでいるときに自分の作品を思い出したのは初めてでした。うらやましいとか、すごいなあとか。羨望と感嘆が入り混じった気持ちを抱えながら読んでいました。
『三角の距離は限りないゼロ』の秋波は、わたしが描きあげたかった『箱壊しの玄武』の「赤寝さん」でした。
クールキャラで、主人公の想い人。彼女は誰かに助けを求めたい。けれど誰にも助けを求められない。その葛藤が彼女自身を苦しめている。
そういう女の子を描きたくて書いた「赤寝さん」。その完成形みたいな描き方をされているのが水瀬秋波でした。
しかし、わたしが書くと「赤寝さん」はメインヒロインに見えない! 主人公の想い人なのに取って付けたような女の子になってしまう。彼女が感情を出したシーンにたいして「え、いきなりどうしたのこいつ?」みたいな感想をもらったときには首を吊ろうかと。
『三角の距離は~』の秋波が想いを吐露する場面で、最初におもったことは「なるほど。こう書けばよかったのか」でした。わたしに書けないことをやってのけるなんてすごい流石プロ! やったね! お手本作家さまを見つけたよ!どんどんインプットしていこうね!なおアウトプットができるとは
秋波と春珂のどちらがメインヒロインか。わたしがメインヒロインらしいキャラクターを書けなかったからこそ考えた問いかけです。
そもそもメインヒロインが二人いたっていいのですけど(三角関係が主題の時点でそうなるわさ)。
だから A.ふたりとも! なわけです。
それでいて、わたしがこの記事で伝えたかったのは、性格が違う二人の書き分け方が上手かったという話でした。
クールキャラの秋波。登場比率が少ないという欠点を、春珂の口から秋波について語らせることで補う。逆に出ずっぱりになりがちな春珂は、友人を交えたり秋波を意識させて「春珂だけ」という印象を散らす。
二重人格というテーマも活かしていて、演劇だったら立ち上がって拍手喝采でした。
そんな感じです。
三角関係というテーマに二重人格も付与してなお描き上げた至高の作品です。2巻発売するらしいよ!詳しくは電撃文庫のHPかこの作者様のツイッター見て。あるか知らないけど。
何かあれば追記します。
青色姫草でした。