久しぶりに系譜を発見!『リア充にもオタクにもなれない俺の青春』感想
百年ぶりくらいに二日連続でブログ更新します。
普通の一生でさえ毎日ブログ更新なんてできないのに、不老不死みたいな人が日記を書き続けられるのなら、それはどんな一生なんだろうかと思いました。思ったこと書いただけなんで発展はないです。
テレワークもできないなんてポイズン……と思いながらお仕事サボってラノベを読んでいるので、その感想をば。
『リア充にもオタクにもなれない俺の青春』
著者:弘前龍
レーベル:電撃
出版年:2017
(※以下、ネタバレあり※)
https://dengekibunko.jp/product/real-ota/321601000597.html
あらすじ
荒川亮太はどっちにもなれない高校生だ。アニメは好きだがオタクと言えるほどオタクの空気についていけず、リア充の空間に馴染むほどリア充に同調できない。
一年生の春にオタクの巣窟OTA団を辞めて二年生になった彼は、彼女がいたりカラオケに行ったりするリア充ライフの輪に交じるがうまく行かない。
そんな折、三か月毎に変わる覇権ジャンルの絵だけを描いている元部活メイトが、夜の公園でオタクグッズを燃やしている現場に出くわして……。おっぱいが弾け飛んでいた。
目次
- 系譜
- save the cat
タイトルの「系譜」とは?
まず、この系譜という言葉について。
これはわたしの勝手な解釈に基づいて、ラノベ作品の中でも勝手に区分けしている流派のものをそう呼んでいます。他の人にさも当然の如く話すと「は?お前誰?」と言われます。
ちなみに、友人にこの話をしたときの感想は「そう……(無関心)」でした。むかつくううううううう(cv.笹木)
……それはともかく、系譜という言葉について。
ラノベと切っても切り離せないのが「オタク文化」であり、それをどう描写するかは結構、年単位でも変わっているような気がします。
迫害の対象からニュートラル……とは言えずとも、オープンにしても問題ないくらいには。
学園ラブコメ全盛によくあった部類として、「オタク趣味は隠すもの」という観念が一般的であったため、そういうヒロインや主人公像(『乃木坂春香の秘密』や『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』。漫画だと『バリハケン』とか)。
オタク趣味が大分露呈できるようになってからは、「オタク趣味を恥じないヒロイン」(恥じないという言葉はいささか弱い、暴走系とかが多かったイメージ)や「オタク文化を受け入れるヒロイン」が天下を取ったと思ったら、あっという間に「クリエイター」系が多くなったような、そうじゃなかったような…(曖昧!)
そんな風にして、オタク文化をどう描くか。「ラノベはなまもの」と言われるぐらいですから、変遷の激しいその時々のイマを切り取ることにも長けていて、いっそ歴史的文化的資料にでもなるのではと思うほどです。
そういう観点でたびたびラノベなんかを読むことが多いのですが(この観点から見たとき電撃だと参考になるのは五十嵐雄策先生と伏見つかさ先生なのでオススメ。何を勧めているのかは自分でも不明)、今回読んだ『リア充にもオタクにもなれない俺の青春』はそういう系譜の中に配置すべき本だと思いました。端的に言えば「発掘した!」って感じなのです
リア充でもオタクでもなく
おそらく想像している人のほとんどは「キョロ充のことかな?」「オタク趣味を隠している人かな?」という推測を立てるかと思います。
果たしてそうだったのでしょうか? 真相はラノベの中にあります。
この2017年という時代性を内容から振り返ると、主人公に対して「キョロ充」という言葉が使われておらず死語に入っていたものとみて取れます(リア充も大分死語だった気がするけど)。また、「オタク趣味を隠す」ということもしていません。作中にはOTA団というオタク系部活が幅を利かせており、クラス内ヒエラルキーはリア充と同等という立ち位置です。作中の高校が秋葉原に近いという条件を加味しても、オタクがオープンに活動することを許されているという時代性を見てとることができました。
……ええ、割合適当なことを言っていることは自覚してます、はい。
系譜の話、終わり!
次!
save the catと照らし合わせて?(※めっちゃくちゃネタバレ※)
シナリオ構成術に「save the cat」というものがあります。外国の脚本家が技術を体系化したもの、という認識で問題ないです。
これを最近少しずつ読んでいて、この『リア充にもオタクにもなれない俺の青春』はすっっっっっっごく構成を確認しやすかったです!(ほんとに誉めてます。めっちゃ感謝してます)
読みかけなんで流れだけを切り取っていくのですが、
序章:
主人公の立場(リア充にもオタクにもなれない)
主人公のスタンス(OTA団をやめてリア充になろうとしている)
登場人物ーイナゴ、オタヒメ、ウェーイ、オタクモブ、リア充モブーの顔みせ
↓アクション:イナゴが公園でオタクグッズを燃やす。
・主人公が燃えるというアクシデント
・どうしてオタクグッズを燃やす?という謎(ミステリー)
1章:
主人公がイナゴと心を通わせる。
OTA団やリア充とのカラオケみたいに空気を読んだりせず「本音で話し合える場所」を手に入れる。(主人公にとっての安らぎの地、安寧)
↓2章への転換点:「三か月だけ私の彼氏になってよ」
・安寧や本当に欲しかったモノに手を伸ばしかけた直後
・求めていたもの(仮初、彼女という存在)が手に入る
・リア充やオタクという括りから抜け出せそうだったときに、リア充サイドに強制的に引き戻される(主人公が安寧から引きはがされる)
2章:
彼女ができた世界
リア充になりきれなかったのは同じでも、”彼女がいる”リア充と認識される(関係ないけど、ここの木ノ元くんマジでいいやつだと思った)
リア充サイドとオタクサイドの挟み合わせ、かつ、本当にほしかったもの(美術室・イナゴ)からも感じる息苦しさ
↓終章:主人公を苦しめる敵の存在。空気や同調圧力の擬人化オタヒメ
・彼女がいるという立場と安寧の美術部の両方を失う危機が訪れる。
主人公は今まで唯々諾々と流れに沿っていたが(OTA団を改革しない、彼女を拒まないなど)、最後に敵に立ち向かう。(ここ問題点。オタヒメが性事情に疎いことについては議論したい。議論の場を設けたい。設けるなら次のブログ記事に回す)
↓結果:主人公は安寧(本当に欲しいもの)を残すことができた。
めでたしめでたし!
という感じでした。内容全バレで申し訳ないんですけど、とりあえず構成としてはこうなっているんだと感じました。
個人的に一番(ほんと、まじで、これには頭を下げても下げても足りない)ためになったのが、2章への転換点です。
これ、一瞬掴みかけてるんですよね。望んでいたありかたでアニメの話ができて、美術部という場所を手に入れて、手に入れかけた瞬間に、それまでのリア充サイドが引っ張ろうとする展開!
「ちがうよ、彼女じゃなくてイナゴをとるんだよ!」と読者が思うように仕向けたのかもしれません。ただ、彼女を選んだからと言って失敗ではないし、主人公の願い自体は果たされているからこそ、その場ではプラス評価で終わっているような気がしないでもない、みたいな。
そこから願いの象徴になった美術部(つまりはイナゴ)に拒否られるっていうの、ほんといい構成ですよね……。
ほんとによくできていて、OTA団が割とファンシーなことやってるんですけど、秋葉原が近いってだけで「あーなるほど」って納得を呼べるのもひとつ技術として学べました。
なんだか参考書の紹介かよって感じですけど、とかくそれぐらいためになったというお話でした。
2巻あるから読むよ!
おしまい!
P.S.
ウェーイさんが主人公を「嘘がつけない」って評価したのは割と目から鱗でした。なるほどそういう見方ができるのか、このキャラはそういう見方をするのかって感じました。(作者)つおい。